プロ野球選手会が来季から導入しようとしている「現役ドラフト(仮称・ブレークスルードラフト)」ですが、いったいどういったものなのか、まだイマイチよく分かってない方も多いのではないでしょうか?
・そもそも「現役ドラフト」って何?
・何故導入するの?
・どんな選手が対象になるの?
・いつから行われるの?
・こういうドラフトって今回が初めて?
・効果はあるの?長く続くの?
こんな疑問を、まだ沢山の人が持っているのではないかと思います。これらについて、現時点で判明していることや記事になっていることを説明・解説していこうと思います。
※現役ドラフト(仮称・ブレークスルードラフト)について、まだ名称は確定してないですが、この記事では「現役ドラフト」で統一して書いていきます。
①そもそも「現役ドラフト」って何?
「現役ドラフト」というのはNPBに所属している全12球団のプロ野球の現役選手によるドラフトで、現役ドラフトの場で指名があれば、指名された選手は指名球団への移籍が可能となる制度になります。
通常の「ドラフト会議」は毎年10月中旬に行われていて、そこではプロ志望届を提出した高校生・大学生や、一定の年数に到達した社会人、独立リーグの選手が対象となっていて、現役のプロ野球選手は対象になっていません。
その「ドラフト会議」を現役選手で行う形にしたのが「現役ドラフト」です。これは2019年の1月22日に、NPBに所属する選手の労働組合「労働組合日本プロ野球選手会(通称:選手会)」とNPB側との意見交換の場で、選手会側から話が挙がりました。その後、具体的な中身についての話し合いが選手会内部で行われたり、NPBとも協議が続けられてきて、2019年12月5日に選手会の定期大会の場で、来季(2020年)の「現役ドラフト」導入をNPB側に強く要望することを決議しています。
②何故、導入するの?
発端はプロ野球選手会からの要望で、球団事情によってなかなか出場機会を得られていない選手に対して、活躍の場を広げるために他球団への移籍がしやすくなることを目的としています。現在のNPBのルールでは、球団に所属するとそこから他球団に移籍するには、FA権の取得・FA移籍に伴う人的補償・トレード・戦力外(自由契約)の主にこの4つに絞られます。FA権を取得するには1軍で長年活躍し続ける必要があり、人的補償やトレードは選手の意志とは関係なく行われ、戦力外(自由契約)は選手としての価値が著しく下がった状態での放出という形になります。これではほんの一部の選手か、1軍で活躍するにはもう厳しい選手でないと難しいでしょう。例えば、若手で伸び盛りの選手で他球団なら活躍できそうなのに、チーム事情でなかなか1軍に上がれない選手にとっては、現行のルールだと移籍は難しいです。
そういった選手でも移籍が可能となり、球界全体で選手の移籍を活性化する目的で、選手会が「現役ドラフト」を導入しようとしています。
③どんな選手が対象になるの?
ここからが具体的な内容やルールについての話になります。こちらはまだ決定した内容ではなく、選手会やNPBも公表していませんが、12月6日の日刊スポーツの記事で現時点での現役ドラフト案が記載されていました。
https://www.nikkansports.com/baseball/news/201912050000785.html
以下にまとめてみました。
- 球団側が8人を選定
- 前年10月のドラフト会議で指名された新人や外国人、一定の高額年俸選手らは自動的に対象外
- 全12球団から最低1人以上が指名される方式
対象となる選手ですが、当初は入団年数ごとに1軍登録日数の下限を設け、登録日数に満たない選手をすべて対象にするビジョンを描いていたと記載されていますが、話し合いの過程で球団側が対象選手を選定することになったようです。
選定選手は8名で、新人や外国人選手、一定の高額年俸選手は対象外になります。何故8名なのかの基準は分かりませんが、球団側としてはこれ以上放出すると編成面で影響が出てしまうことや、少ないとあまり効果がないことから、この人数となったのだと思われます。
一定の高額年俸選手が対象外となっていますが、この高額の基準はまだ明らかにされていません。球団毎に年俸額に差があるので、その差に影響しないような基準にした方が良さそうです。
全12球団から最低1人以上が指名される方式で、これはまだどういう形で指名していくのか分からないので解りにくいところですが、最低でも12名(各球団1人ずつ)の選手は移籍できるということになりそうです。ただ、このルールでは球団は必ず1人指名しなければならなくなるので、指名順や指名方法を考慮しないと球団ごとに選べる選手に偏りが出てしまう可能性もありますね。
④いつから行われるの?
現時点ではまだ選手会とNPB側で検討中ですが、選手会側の要望としては①で記載したように2020年からの導入になっています。しかし12月10日のスポーツ報知の記事では、まだ不透明になっているようで、来季導入へ向けての制度案の統一が難しくなってきています。
https://hochi.news/articles/20191209-OHT1T50222.html
開催時期についてもシーズン中の8月に行う案や、シーズンオフに行う案などもあり、まだ検討中のようです。
⑤こういうドラフトって今回が初めて?
実は過去にも、選手の移籍機械を増やす目的で現役選手のドラフトのようなものはありました。1970~72年に行われた「トレード会議」や、1990年から行われた「セレクション会議」などがそれにあたります。
選抜会議(通称:トレード会議)(1970~72年)
こちらは球団の戦力均衡を図る目的で行われた会議で、1970年から3年間行われました。第1回はドラフト会議の10日後の1970年11月10日。各球団が保有選手の20%をリストに記載して提出し、セリーグでは66名、パリーグでは64名がリストアップされました。その提出したリストの中から各球団がウェーバー順で指名していき、この年は14名が指名を受けました。
元球団への補償として、参稼報酬と指名順位に応じた金額が支払われることも決められていました。
ただ、第1回ではこの金額を支払いたくない球団が多く、殆ど3巡目から指名されました。このようなルールで3年間続けられて、移籍する選手も毎年いましたが、あまり活性化すること無く終わってしまいました。
終わってしまった理由として考えられるのは、大多数の選手が移籍後にあまり戦力として活躍できなかったことではないでしょうか。第1回トレード会議で指名された選手と成績を以下にまとめました。
指名された14名の内、移籍後に全く試合に出られなかった選手が6名(1人は指名時に断りを入れて引退) 他に5名が試合に出ましたが、あまり良い成績を残せず引退。
佐藤政夫投手、真鍋幹三捕手、阿部成宏外野手の3名は移籍後に活躍した選手と言えます。この3名をよく調べてみると、佐藤政夫投手は社会人から巨人に指名されましたが、1年目に1軍での出場機会が無く、オフにトレード会議の対象になりました。ロッテに移籍後は17年間で418登板するなど、プロに長く在籍し続ける活躍をしました。
真鍋 幹三捕手は社会人から阪神に指名されましたが、3年間殆ど1軍で出番が無く、3年目オフにトレード会議の対象になりました。移籍後の近鉄では3年間と短い期間でしたが、50試合以上登板しました。
阿部 成宏外野手は高校生から大洋に指名され6年間在籍していましたが、2軍暮らしが長く1軍にようやく上がったのも5年目で、5年目オフにトレード会議の対象になりました。移籍後の巨人でも2年間在籍しましたが、1軍では6試合の出場に留まり、第3回トレード会議で巨人から近鉄へ移籍しました。そこから600試合以上出場するほど活躍を見せた遅咲きの選手でした。
このようにトレード会議の期間は3年間のみでしたが、移籍によってその後活躍するキッカケとなった選手もいましたし、それも大きな活躍をした選手もいました。
ただ130名ほどがリストアップされたのに対して、トレード移籍実現が14名。その内、移籍後に活躍した選手が3名ということで、このトレード移籍が成功かというと、また難しい評価になりましたね。この成功率の低さから、3年で終わってしまったのだと思われます。
セレクション会議(1990~不明)
この一覧が第2回のセレクション会議での移籍選手と成績になります。移籍後に成績を伸ばした選手というのは残念ながらおらず、殆どが移籍後3年以内に退団しています。
唯一、ダイエーから日本ハムに移籍した坂口選手が、少し結果を残せたといったところでしょうか。
また余談ですが、この第2回目のセレクション会議の直前で、ダイエーの田淵監督が記者の前で、広島のリストの選手を漏らしてしまうという出来事がありました。
当時、リストに記載されている選手は移籍を希望している選手であることから、機密情報として守られるべきものだったため、それを漏らしてしまったということで、広島の松田オーナー代行が激怒。田淵監督の謝罪会見が行われるという事態になりました。
この出来事が起きた影響か、またトレードの成立がそこまで多くなかったことで、セレクション会議は翌年以降にはあまり話題にも昇らなくなり、自然消滅してしまいました。1970~72年のトレード会議と比べても移籍選手の人数が少なすぎたため、効果はかなり薄かったようですね。
⑥効果はあるの?長く続くの?
現役ドラフトは球団がリストを作成することや、ウェーバー制などがルール的にはトレード会議と似ていますが、新人や外国人、高額年俸選手が対象になる条件がついた形ですね。
トレード会議の時よりも対象選手人数がやや少なくなりますが、最低1球団1人ずつ指名という制約がつくので指名人数はトレード会議と同じくらいになりそうです。
これらを考えると、対象選手の条件や指名予想人数がトレード会議よりも少しハードルが高くなってるように思えますし、短命で終わったトレード会議と同じ程度の効果かもしれません。
昔に比べると時代も制度も変わりましたが、トレード会議が3年で終わったことを考えると、同じような条件の現役ドラフトも、同じように短命で終わってしまう可能性は否定できないでしょう。
ただ、この現役ドラフトが盛り上がっていけば長く続けることも可能だと思いますし、その中で徐々に改善していくこともできるでしょう。
そのためにはファンにも周知が必要で、ファンの後押しがあってこそ盛り上がっていくと思います。
選手会としても、単に導入して終わりではなく、長く続けて改善していくようにするにはファンが納得し、楽しめるような形にしていくことを考える必要があるでしょう。
あとがき
現役ドラフトについて、内容や導入の経緯、過去の移籍案との比較などをまとめました。個人的には、選手の移籍活性化を目的とした現役ドラフトについては賛成の立場です。ただ、導入するにあたって短命で終わるものにはしてほしくないですし、導入によってプロ野球がより発展して楽しくなるような、意義のあるものになって欲しいと思います。
過去に2度、同じような移籍活性化案が出たにも関わらず、どちらも短命に終わってその後数十年間、移籍活性化案が出てきていません。今回も導入して短命に終われば、また20年間はこういう話が出なくなる可能性がありますし、そうなれば下手に今急いで導入しようとするのは悪影響とも言えるでしょう。短命で終わってしまっては、他ならぬ選手たちが1番失望感が大きいでしょうし、ここはもっと真剣に考えていくべきところだと思います。
今現在、現役ドラフトについて出ている情報だと、長く継続していくにはやや難しいと思われます。
導入までまだ期間がありますので、それまでにもっと中身を改善していって欲しいです。