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【プロ野球】セ・パの実力差。DH制の有無が要因か?【考察】

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ここ数年、プロ野球界で議論になっている話題として、セ・パの実力差が開いているというのがあります。近年の日本シリーズはずっとパ・リーグ球団が勝ち続けていて、采配の妙や好不調の影響だけではない、根本的な実力差がついていると考える人が増えてきました。

ではセ・パで何が根本的に違うのかという視点で見ると、まずルールに明確な違いがあります。それがDH制の有無です。DH制はパ・リーグが採用してセ・リーグが採用していません。DH制にすることで本来スタメンで投手の打席があるところを、指名打者という打撃専門の選手の打席にできます。

これによって打者の補強や育成がしやすくなり、投手は試合中に代打交代が無くなる点をDH制のメリットと捉え、これらが現在のパ・リーグ優位な状況を作り出しているということです。

こうした意見が正しいか、セ・パの実力差になっているのかはよく議論になるので、検証してみることにしました。

セ・パの実力差が出てきた時期

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まず始めに、セ・パの実力差はどこからついてきたのかを確認してみました。

10年区切りで年代別に分け、パ・リーグでDH制が始まった1975年から2019年までのセ・パの優勝回数をカウントしてみました。

その結果を見ると、2010年代はパ9勝、セ1勝と圧倒的な差がついていますが、1975年~2009年まではパ18勝、セ17勝と殆ど互角と言っても過言ではない戦績になっています。

つまり現在のパが勝っている状況は2010年からで、DH制が要因だとしたら35年ほど経ってから実力差が出てきたと言えるでしょう。

 

セが強い時代もあった

期間を区切って見ると今はパが強いですが、逆にセが強かった時期も存在しました。1993~2002年までの10年間に区切ると、ヤクルトが4度、巨人が3度、横浜が1度日本一になり、セ・リーグが10年間で8勝していました。これらは今のパが強い状況とよく似ています。

ちなみにセ・リーグが強かったのが逆指名制度の恩恵を受けてた時期だったから、という意見もあります。確かに逆指名制度は1993~2000年までの期間になり重なりますが、これはセ・リーグだけに優遇された措置ではなく、全球団に恩恵があった措置なのでこれが原因というのもそこまで考えにくいでしょう。この時期は人気も資金も豊富だった巨人だけでなく、ヤクルトや横浜も日本一になってますからね。そして2001~2006年には名称が変わりますがほぼ逆指名制度と同様な自由枠・希望枠が続いていますが、この時期に入るとむしろパ・リーグが盛り返してきています。こう考えれば逆指名制度の影響でセが強かったと結論づけるのはやや難しいと思います。

このようにセが強かった時代は過去にもありました。DH制の差というのをあえて考えないとするなら、今パが台頭しているのは過去のこのような時期と同様に趨勢の一環という見方もできそうです。

 

DHは打者起用に差を生むが、それ以外の違いにも目を向ける

DH制は打者が育ちやすいという意見があります。確かに指名打者は守備を度外視して選手を起用でき、打席に立たせることができます。指名打者にはシーズン(143試合換算で)600打席近くが発生するので、これは確かにセに対しての打席数(試合経験)でのアドバンテージで、この打席の差が打者育成の差を生むという可能性も否定はできません。

ただ、この実戦経験という意味だと、ソフトバンクに限った場合はこの600打席以上に、他球団との膨大な差が実はできています。

それが3軍です。3軍の試合は通常なら年間70試合以上あり打席数で換算するなら3000打席はゆうに超えます。2軍まででNPBの2軍戦としか試合を組んでいない球団とは、DH制の有無以前に年間3000打席以上も差がついているのです。

もちろん1軍と3軍の試合ではかなりの実力差がありますが、1軍の指名打者の600打席の有効性を考えるのなら、この3軍の3000打席の違いというのも無視することはできないでしょう。

また数値化はしづらいですが、施設設備への投資だったり、スカウトや裏方の人数、優秀なコーチングスタッフの確保、優秀な選手の獲得、既存選手を他球団に流出させない取り組みなど、球団としての取り組み方やお金のかけ方などでも球団ごとに大きな差があります。

DH制の有無という違いはもちろんありますが、そこを見るのならこれらの違いの影響についても考慮する必要はあるでしょう。

 

DH制の違いを埋めるなら、セにDH制導入するだけが正解ではない

またセ・パのDH制の違いを埋める方法としてセにDH制を導入するという話が中心的になっていますが、違いを変えるだけならパをDH制無しにする意見もあって然るべきかと思います。
もしくはセ・パで毎年交互にDH制有無を変更していくことや、シーズンを半分に分けてDH制有りの時期と無しの時期を設定することも案としてはありそうです。
むしろセだけ一方的にパに合わせるよりも、両者に共に変化が発生する方が公平性という観点で見ると適正に思えます。
現在の議論で肝心なところは、DH制の有無がセ・パの実力差になっている可能性があるという点で、その答えが「セにもDH制を導入する」という1つの解だけでは無いはずです。様々な視点から考えてみるべきかと思います。

 

1つの原因と1つの解にこだわりすぎない議論を

今後もセ・パの差が埋まらず、パ・リーグが毎年日本一になるような状態が続いていくと、興行的につまらないものになっていく可能性は確かにあります。それは憂慮すべき事態で、何かしら打開策を考えるべきでしょう。

ただ、そのために1975年から約45年も続いてきたルールを変更するというのは、やや乱暴のようにも正直思えます。

ここまで記載してきた通り、現在のセ・パの差は単にDH制の差だけとは言い難く、それ以外の可能性も考える余地が大いにありますし、仮にDH制の有無の差を無くすとしても、その対応方法は「セにDH制を導入する」ということだけではありません。

プロ野球界の発展のためにも議論自体は大いにあって良いと思いますが、個人的に現在の議論はやや原因と答えを絞りすぎているように思えますし、もっと多様な意見や答えが出てきて良いと思います。

その中でよく練られた案を作り出していければ、それは球界にとっても大きなプラスとなるものになっていくと、自分は考えました。

 

この内容はあくまで1個人の意見で、これが正しいと押し付けるものではありません。異論・反論も沢山あるかと思いますが、逆にそうした声を出しやすくなって議論の材料となっていけるのなら、むしろ幸いです。

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