データで語るドラフト・育成論

プロ野球ニュース解説、ドラフト候補紹介、野球関連の持論・考察・寸評などを記事にしています。

【ドラフト2018】広島の指名結果と考察

10/25(木)に2018年のプロ野球ドラフト会議が行われた。

今年は高校生野手の根尾(大阪桐蔭)・藤原(大阪桐蔭)・小園(報徳学園)の3名が競合するなど大いに盛り上がったが、この指名結果について各球団ごとに考察をまとめてみた。

今回は広島の指名についての考察だ。

f:id:hamanontan:20181127221137p:plain

指名結果

【本指名】

1位 小園海斗 内野手 報徳学園高☆
2位 島内颯太郎 投手 九州共立大
3位 林 晃汰 内野手 智弁和歌山
4位 中神拓都 内野手 市岐阜商
5位 田中法彦 投手 菰野
6位 正髄優弥 外野手
亜細亜
7位 羽月隆太郎 内野手 神村学園

 【育成指名】

1位 大盛 穂 外野手 静岡産業大

広島のドラフト1位は事前公表されず、指名前日に松田オーナーが「なかなか決まらない」とコメントして当日に持ち越しとなった。過去の指名だと広島は事前に公表することもあったため、今回は本当に悩んだのだと思われる。その悩んだ末の1位指名が小園だった。小園にはオリックスDeNAソフトバンクも1位指名となったため、4球団競合の抽選となったが、広島が見事に引き当てることができた。今年の高校生ショートで根尾を凌ぐとも言われる守備・走塁と、安定した打撃ができる走攻守揃った選手を見事獲得した。

2位では最速152kmの球威ある直球に変化球を織り交ぜる本格派の島内投手を指名

3位では今年の高校生スラッガーの中でも長打力がピカ1な三塁手の林を指名

4位では遊撃手と投手を両方こなす身体能力抜群で長打力もある中神を指名

5位では最速152kmの球威抜群の直球で三振を奪える田中投手を指名

6位では東都で大学通算9本の本塁打のパワーを備えた外野手の正髄を指名

7位では小柄だが足が速く肩も強い守備範囲に定評のある遊撃手の羽月を指名

育成1位ではバットコントロールと足の速さに定評のある中堅手の大盛を指名

以上、本指名7名(投手2名、内野手4名、外野手1名)と育成指名1名(外野手1名)の計8名の指名となった。

 

指名の意図考察

セリーグ3連覇を果たした広島はもはや1強時代と言っても良いだろう。現戦力で広島に敵う球団はセリーグ内にはおらず、広島としてはこの先も優勝を続けて歴史に残る広島黄金時代を築きあげたいところだ。

だがそんな広島に、この先避けては通れない問題が待ち構えている。それは現主力陣のFA権取得だ。広島の主力のFA権取得予定年を書き出してみる。

 2018年オフ 丸佳浩(29)

 2019年オフ 野村祐輔(30)、今村猛(28)、菊池涼介(29)、會澤翼(31)

 2020年オフ 田中広輔(31)

そして残念ながら丸は11月30日に巨人へFA移籍することが報道された。これは広島にとってかなり痛いが、来年オフには更に投打の主力4人がFA権を取得する予定になっていて、彼らも抜けると広島は戦力的に大打撃になってしまうだろう。無論、引き留めに力を入れることは間違いないが、残留させるために高額な条件を提示することになり、他の補強ができなくなる可能性も出てくる。広島が連覇を続けるためには、この問題を乗り越えなければならないだろう。そういった事情もあり2年後・3年後へ向けた補強も今のうちから行わなければならず、ドラフトはそのための指名になると言えるだろう。

そういった事情を含んだドラフトだったが、その中で広島がドラフト1位に指名したのは報徳学園小園だ。小園は今年のドラフトで高校生野手のトップ3(根尾・藤原・小園)の1人で、ドラフトでも彼らに指名が集中した。小園の最大の魅力はショートの守備で、プロに匹敵する守備範囲を現時点で備えている。足の速さ・グラブ捌き・反応の良さなども含めて守備だけなら即戦力になれるだろう。打撃面でも広角に打てるバッティングセンスとパンチ力のある打撃で、U-18の壮行試合では同じドラフト1位の松本(日体大)から木製バットで本塁打も打った。今年は根尾が高校生野手最も注目を集めたが、ショートとしての技術・能力なら小園の方が上と評価されてもおかしくない。

そんな小園を指名した意図としては、やはり数年後を見据えたショートのレギュラー候補だろう。ショートは現在田中が守っていて広島の不動の1番打者だが、その田中は2年後にFA権取得の予定になっている。田中が実際に移籍するかは分からないが、そうなっても大丈夫なよう準備だけはしておく必要があるだろう。ショートは野手の中でも守備の要で、ここが崩れるとチーム全体に影響が出る。その重要なポジションを小園を獲得して今から育てることで、世代交代に対応した正しい判断と言えるだろう。4球団競合の末、小園の交渉権を獲得したことは広島にとって何よりも嬉しい結果だったに違いない。

2位指名では大学生で直球の球威がある島内投手を指名した。島内は4年秋に福岡六大学野球でリーグトップの防御率ベストナインも受賞。最速152kmで球威十分の投球で即戦力投手として期待できる。この島内を指名した意図を考えると、リリーフが欲しかったのではないかと推測する。広島は先発5人が全員100イニング以上投げ、先発の頭数が揃っている球団だ。また若手の先発候補も多く1軍で試合経験を積ませることができていて、早急に即戦力の先発が欲しい状態では無い。代わりにリリーフはアドゥワ・フランスア・一岡・ジャクソンなど一部の投手に負担が集中していて、もう少し1軍で投げれるリリーフを増やして負担を分散させたいだろう。アドゥワもまだ高卒2年目なのに1軍でフル回転させられていて、肩や身体の負担が将来に影響しないかと心配になる。またドラフト後に小園を外した場合、甲斐野を指名する予定だったと広島のスカウトがコメントしていることからも、島内は甲斐野に代わる即戦力リリーフとして考えられているだろう。

3位指名では智弁和歌山スラッガーを指名した。は今年の高校生の中でもトップクラスのスラッガーで、単純にホームランを打てる力なら根尾や藤原をも凌ぐ打者ではないだろうか。サードの守備も安定していて、プロでもサードを守っていける可能性はあるだろう。を指名した意図は将来の主軸候補として考えて間違いない。広島には現在丸や鈴木誠など本塁打を打てるスラッガーがいるが、2軍を見ると外国人のメヒアぐらいしか本塁打を売りに出来る選手がいない。日本人だと高橋大樹(24)が10本打てているが他にスラッガー候補がおらず、将来の主軸候補が不足している。そういった事情を考えると、を未来の主軸打者としてしっかり育てておきたいところだ。

4位指名では高校生遊撃手の中神を指名した。中神は高校では投手と遊撃手を兼任しており、身体能力がとても高い選手だ。投手としては最速146kmを投げるが、指名後の広島スカウトのコメントを見ると打撃を評価しており内野手として育てていくと思われる。ショートだと1位指名の小園と被るが、それでも中神を4位で指名した意図は将来の内野陣を盤石とするためだろう。冒頭に記載したが、広島は今後主力野手がFA権を取得していくため、戦力流出の可能性に備えなければならない。特に二遊間の菊池・田中がどちらも2020年までにFA権を取得する可能性があるため、万が一に備えて二遊間の後継者を今から育てておくのは重要だ。そのため小園だけでなくもう1人二遊間を守れる選手が必要で、それが中神と考えられる。仮に菊池・田中がFA移籍せず残留したとしても、将来的には次世代の二遊間として小園・中神という構想は考えられているはずだ。広島はFA補強をあまり行わない球団なので、彼らを将来の二遊間を担う選手として、今のうちから備えておくつもりだろう。

5位指名では高校生投手の田中を指名した。田中は最速152kmで直球の球威がある投手だが、田中の良さはその球威のある直球をコンスタントに投げれるところだろう。そういった点から将来のエース候補として期待されている。広島は若手の先発が多いが、将来のエース候補と考えられるほどの投手がまだ出てきていない。現1軍ローテも5年後には殆どが30歳以上になり、若い投手で特にエース候補となれる投手が欲しいところだ。田中を指名した意図には、そういった将来のエースとしての期待が込められているだろう。

6位指名では亜細亜大の外野手の正髄を指名した。正髄はホームランを打てる外野手で、バッティング自体はやや粗いが将来の主軸候補として考えての指名だろう。3位指名ののところでも記載したが、広島はホームランを打てる若手が少なく、次世代の主軸候補がなかなか出てきていない。正髄のようにパンチ力のある選手を指名しておき、主軸候補を増やしておきたい思惑があるだろう。正髄は大学ではライトを主に守っているが、 広島のライトは鈴木誠が定着していることを考えるとレフトで起用されそうだ。まず2軍で打率をしっかり残せるようにして、それから1軍で経験を積んでいくという形で育てられていくだろう。

7位指名では高校生遊撃手の羽月を指名した。これで高校生内野手小園・林・中神・羽月と4名指名したことになり、将来の内野候補を集中的に指名したことになる。羽月はショートを守っているため小園中神とも丸被りだが、ここまでショートを指名していく意図は、やはり今後の内野の主力流出に備えてということだろう。小園・林・中神が全員順調に育ってそれぞれ1軍レギュラーに定着してくれれば問題無いが、そう思い通りにいくことが少ないのが育成の難しさで、いざという時のことを考えて備えはしっかりしておかなければならない。ましてや広島の今の二遊間は田中・菊池という球界を代表する2人で、この後継者がそうそう簡単に埋まることは無いだろう。羽月は身体が小さいが守備は一級品で、小園中神にも劣らない守備力を持っている。こういった守備が上手く一芸に秀でた選手は将来大成する可能性を持っているため、これからプロで小園・中神よりも成長する可能性を秘めている選手だ。こうした競争状態を作ることで内野陣全体のレベルアップも考えられていることだろう。

育成1位指名では大学生外野手の大盛を指名した。大盛はバットコントロールが良く俊足で守備範囲も広いセンターで、育成指名だが即戦力に近い選手と考えられる。広島は丸がセンターを守っているが、その丸のFA移籍が決まったことで来年からセンターの後継者が必要になってくる。センターを守れる広い守備範囲の選手は割と少なく、大盛には将来の1軍センター候補として期待されていることだろう。

全体的な指名の意図を考察すると、やはり直近の主力FAに備えた指名と考えられる内容になっている。丸・菊池・田中などセンターラインがFAにより流出するリスクや、仮に流出はしなくとも5年後には彼らは全員33歳以上で、どのみちそろそろ後継者を育てなければいけない時期に来ている。広島が今後も優勝し続けるにはこうした世代交代への対応が不可欠になってくるため、FAによる弱体化を防ぐための指名と言えるだろう。

 

補強ポイントとの比較

広島の補強ポイントを今シーズンの成績から考察してみる。

チーム防御率 リーグ4位

先発防御率 リーグ4位

リリーフ防御率 リーグ3位

1試合平均失点 リーグ4位

チーム打率 リーグ3位

チーム本塁打 リーグ2位

チームOPS リーグ1位

1試合平均得点 リーグ1位

広島の特徴は強力な打線で、それを裏付ける成績となった。打率や本塁打数は1位ではないが、1試合平均得点がとても高く打線の繋がりの良さが見えてくる。

反面投手陣がもう少し成績を上げて欲しいところだが、リーグ中位程度なのでそこまで気にしなくても良いだろう。今回の広島の指名はむしろ打撃陣のこの成績をこれから先も維持していくための指名になっている。

この打撃陣の成績は田中・菊池・丸・會澤・鈴木・松山・野間・西川などレギュラーメンバーが大部分を占めており、控えの選手はそんなに絡んでいない。なのでレギュラー選手達が今後抜けたり衰える時に備えて、代わりの選手を用意できるようにした指名と言えるだろう。

小園・林・中神・羽月などで次世代の内野手を補強し、正髄・大盛で次世代の外野を補強した。現主力が抜けて戦力が衰える前に彼らを1軍戦力に育て上げ、打ち勝つ広島を続けていきたいところだろう。

投手陣の補強はリリーフに島内・将来の先発に田中と手薄な指名になったが、この2人は投手成績を現状で維持しておきたい思惑があるだろう。

広島は20代の投手が多いので年齢的な衰えの心配が少ないが、反面リリーフで登板過多による疲労や故障のリスクが出てきている。こちらのリスクに備えて島内を獲得したと考えられる。田中にしても、次世代の先発候補がなかなか台頭してきていないというチーム事情を考えて、将来の先発投手力低下のリスクに備えた指名と言えるだろう。

野手にしろ投手にしろ現在の成績を意識するよりも、今後発生する成績低下のリスクに備えた指名と言えるだろう。今はもう三連覇した戦力がいるのでそこまで問題点は少なく、それよりもこれから先を考えた指名となっている。

 

戦力となった際の未来予想図

今ドラフト選手指名選手が順調に戦力となった場合、広島の3年後・6年後にどう1軍戦力に組み込まれてくるかを考察してみた。

f:id:hamanontan:20181127221415p:plain

丸のFA移籍が決まったことで、来年からセンターの後継者を用意する必要がある。その後継者として考えたのが野間だ。野間は元々センターを守っていた選手だったが、1軍は丸がセンターで鈴木がライトなので、レフトを守ることになった形だ。そのため来年センターを守ることは守備的には特に問題は無いだろう。野間がセンターに入ることでレフトが空くが、ここにドラフトで指名した正髄が入ることを期待したい。1年目から打撃面で野間を上回る成績を残すのは難しいと思うが、2~3年後にそうした成績を残せれば野間の代わりとしては十分だろう。

他のポジションでは松山が3年後には36歳となるため後継者が必要で、ここには今年2軍でOPS1.000超えの活躍をしているメヒアを入れた。広島はこのメヒアを昨年から2軍で育てており、将来1軍の主力となることが期待されているだろう。他のポジションは3年後までに會澤・菊池・田中らがFA権を取得する可能性が高いが、全員残ると仮定してそのままレギュラーとして記載した。

6年後を考えると、今年指名した高校生内野手組が全員1軍戦力となってることを期待したいところだ。内野は一塁のメヒア以外全部が代わり、中神・林・小園を入れた。

それぞれ今の菊池・西川・田中並みの成績を残せれば広島打線に影響は少なく、強い打線を維持していけるだろう。他には捕手の會澤が年齢的に厳しくなってくる頃で、ここは1年目から2軍で素晴らしい打撃成績を残している坂倉を後継者とした。坂倉は2年目の今年も2軍でOPS.900超えの成績を残していて、打撃面はもはや別格の選手と言える。あとは捕手としての守備力を磨き、1軍に対応できるようになれば會澤の後継者として文句無しだろう。

 

f:id:hamanontan:20181130211442p:plain

先発は3年後の時点だとジョンソンが年齢的に厳しいだろう。他の先発はまだ30歳以下のため、大きな変化が少ないのは安心できるところだ。ジョンソンの代わりにローテに入る投手は薮田と予想した。薮田は昨年129イニングを投げ15勝を挙げており、先発としての実績がある投手だ。今年は1軍で成績が伸び悩みあまり活躍できなかったが、2軍では安定した投球を続けていてまた1軍先発への返り咲きを狙っているだろう。

中継ぎは外国人のジャクソンの退団が確定し、来年はジャクソンの代わりが必要だ。永川も今年37歳ということもあり、来年も1軍で投げれるかは分からないだろう。彼らの代わりとして島内と塹江が入ってくると予想した。島内は「指名の意図考察」でも記載したが、リリーフとして指名したと考えられるため来年から即戦力での活躍が期待されているだろう。塹江は今年高卒4年目でそろそろ1軍で結果を残すことが求められてきている。今年の2軍成績はあまり良くは無いが、短いイニングを抑える投球ができれば1軍リリーフに抜擢される可能性はあるだろう。

6年後の先発を考えると、大瀬良・九里・野村の後継者が出てきて欲しいところだ。ここにはドラフト指名した田中と高橋樹・高橋昂が入ってくると予想した。20代中盤の彼らにはこの時期には1軍戦力として働いてもらわなければ困るという思いもある。

リリーフは一岡・今村がそろそろ厳しくなってくる頃で、彼らの後継者として長井と藤井を考えた。長井は高卒2年目だが2軍でリリーフとして安定した成績を残せていて、将来の1軍リリーフ候補として期待が高い。藤井は今年高卒4年目で、1軍でも何度か起用される機会があった。この経験を活かして数年後に1軍リリーフを任せられるようになってほしいところだ。

このように投手陣は現在の主力の年齢が20代で集中していることや、将来的にも上がってこれそうな若手が見られるため、島内田中の2人だけの補強で十分と考えたのだと思われる。あとは自前の育成で安定した投手陣を維持していきたいところだろう。

 

採点

以上のことを踏まえて指名結果の採点を行ってみた。

99点

内訳を以下に記載する。

 

プラス点(100点)

・現在田中が担っている1番ショートを将来的に任せられる小園を指名

・リリーフの勤続疲労に備え即戦力として期待が持てる島内を指名

・将来の主軸候補が少ない広島が欲しかった長距離砲の林を指名

・田中・菊池のFAに備え、小園との新二遊間が期待できる中神を指名

・大瀬良や野村の後釜として右の本格派として成長が期待できる田中を指名

・丸が抜けることによる打撃力低下を防ぐため長打が期待できる正髄を指名

・小園や中神と共に競争して将来の内野陣のレベルアップを期待できる羽月を指名

・丸が抜けたセンターを守り後継者候補としても期待できる大盛を指名

・今後発生する可能性のあるリスクに備え、将来のことを良く考えた深い指名

・単なる数補強ではなく、競争意識も持たせる指名選手自体に意味のある指名

 

マイナス点(-1点)

・プロに入ってからでないと分からない不確定要素

 

指名した全選手がプロで活躍し、結果を残すことを願っている。

【スポンサーリンク】