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【ドラフト2018】ヤクルトの指名結果と考察

10/25(木)に2018年のプロ野球ドラフト会議が行われた。

今年は高校生野手の根尾(大阪桐蔭)・藤原(大阪桐蔭)・小園(報徳学園)の3名が競合するなど大いに盛り上がったが、この指名結果について各球団ごとに考察をまとめてみた。

今回はヤクルトの指名についての考察だ。

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指名結果

【本指名】

1位 根尾 昂 内野手 大阪桐蔭
1位 上茶谷大河 投手  東洋大

1位 清水 昇 投手 國學院大
2位 中山翔太 外野手 法政大
3位 市川悠太 投手 明徳義塾
4位 濱田太貴 外野手 明豊高
5位 坂本光士郎 投手 新日鐵住金広畑
6位 鈴木裕太 投手 日本文理
7位 久保拓真 投手 九州共立大
8位 吉田大成 内野手 明治安田生命

 【育成指名】

1位 内山太嗣 捕手 栃木ゴールデンブレーブス
2位 松本 友 内野手 福井ミラクルエレファンツ

ヤクルトは今年のドラフトでは根尾の1位指名を事前公表していた。この時点で競合覚悟の指名とコメントしていたが、実際その通りの4球団(中日・巨人・ヤクルト・日本ハム)競合となり、中日がクジを引き当て交渉権を獲得した。

外れ1位指名では東洋大の投手の上茶谷を指名。ここでもDeNAとの競合となり、DeNAに当たりクジを引かれてしまった。

外れ外れ1位指名で今度は国学院大の投手の清水を指名。ここは競合なく、1位指名が清水に確定した。

2位では法政大の右のスラッガーでパンチ力がある中山外野手を指名

3位では最速149kmの本格派でサイドスロー明徳義塾の市川投手を指名

4位では高校通算45本のスラッガーの明豊の濱田外野手を指名

5位では社会人のキレのある球を投げる左腕の新日鐵住金広畑の坂本投手を指名

6位では最速150kmで球威ある直球が武器の右の素材型、日本文理の鈴木投手を指名

7位では最速140km中盤でキレのある変化球が武器の九州共立大の久保投手を指名

8位では広角に打てる打撃と守備の上手い遊撃手の明治安田生命の吉田内野手を指名

育成1位では2塁送球1.9秒台で正確な送球が武器の独立リーグの内山捕手を指名

育成2位では高い打率で内野ならどこでも守れる独立リーグの松本内野手を指名

以上、本指名8名(投手5名、内野手1名、外野手2名)、育成指名2名(捕手1名、内野手1名)の計10名の指名となった。

 

指名の意図考察

ヤクルトは昨年の最下位から今年は一気に2位へと飛躍した。この飛躍の要因としては野手主力が固定化できたことと、それによる打撃力アップが挙げられそうだ。

しかし現戦力を見ると主力は30歳以上のベテラン勢が多数を占めており、数年先に彼らの後継者が揃えられるのか、という不安があるだろう。

とりわけ主力の打撃力がチームの強みになっていたので、ここが弱体化するとまたリーグ下位へ落ちる心配も出てくる。

投手力を上げることも大事だが、打撃力を落とさないために今後の世代交代の準備をしっかりと行っていきたいところだ。

そんなヤクルトだが、今年のドラフトでは根尾の1位指名を早々に公言した。根尾を指名した意図については明白で、前述の通り打撃力が将来低下する可能性を考え、次世代の主軸を担える存在が欲しいという点に尽きる。根尾の人間性などを含めても、チームをまとめ引っ張る存在になることも期待でき、野手陣ひいてはチーム全体に好影響を与える選手だろう。

だが結果は4球団競合となってクジを外してしまった。外したヤクルトは次に東洋大の上茶谷を外れ1位で指名した。

根尾✕→上茶谷へ変えた意図としては、先発投手陣の強化に切り替えたと考えて良いだろう。ヤクルトは打線が魅力のチームだが、反面投手陣はやや不安定な状態になっている。規定到達がブキャナンしかおらず外国人投手が3人体制で、38歳の石川がローテの3番手に来ている状態で、投手陣に厚みが無い。そこで大学生投手でトップクラスの評価をされている上茶谷を指名したが、ここでもDeNAとの競合となってしまい外した。

 

上茶谷を外した次は國學院大清水を1位指名した。この指名は上茶谷と同様に先発投手の強化という意図で間違いないだろう。ヤクルトとしては根尾を外したら即戦力投手が欲しかったという意図が伺える。清水は最速151kmの直球と多彩な変化球を持っていて、安定感がとても評価されている投手だ。ヤクルトのローテは上で書いたが外国人と石川に頼った形になっていて、来年以降はどうなるか分からない。清水のように安定感ある投手なら1年目からローテに入りできる期待が持てるため、ヤクルトとして今まさに欲しいタイプの投手だったと言える。

2位指名では法政大の中山外野手を指名した。この意図としては次世代の打撃の良い外野手が欲しかったということだろう。ヤクルトの現外野陣はバレンティン・青木・雄平で全員34歳以上というベテランで固まっている。彼らの後継者はすぐにでも準備が必要だが、彼らほどの打撃力のある外野手が現在チームにいないのも現状で、即戦力候補で打撃の良い外野手は当然欲しいところだ。中山は六大学で通算11本のホームランを打っており、右の強打者として注目を集めているスラッガーで現レギュラー外野陣の後継者としてピッタリの指名と言える。

3位指名では明徳義塾市川投手を指名した。1位・2位で投打の1軍即戦力候補を指名してきたが、ここで将来性を考えた高校生投手の指名となった。市川サイドスローで最速149kmを投げ直球のノビが良く、この球威は既にプロと比較しても遜色ないところまできている。ヤクルトは高校生投手を好んで指名して育てている球団で、市川の素材としての良さに目をつけて将来のエース級、または抑えとして考えて指名したのではないかと思われる。

4位指名では明豊高の濱田外野手を指名した。濱田は高校通算45本の右のスラッガーで、将来の主軸候補としても期待されているだろう。守備はライトを守っていて、プロでもライトを守れると雄平の後継者として期待できそうだ。ヤクルトは昨年のドラフトで村上を指名していて、今年は2軍で427打席 打率.288 17本 OPS.879という高卒ルーキーとしては異例の素晴らしい活躍をし、将来の主軸打者になることがはっきり見えてきている。今度はこの村上と並んで主軸を打てる打者の準備が必要で、それが濱田というわけだ。村上・濱田が台頭してくることで次世代野手陣も打撃力を武器にした状態を維持していけるだろう。

5位指名では新日鐵住金広畑の坂本投手を指名した。坂本は大卒社会人左腕でリリーフなら即戦力として期待できる投手だ。ヤクルトのリリーフは他球団と比べても成績は良いが、近藤や石山など一部の投手が70試合以上登板していて負担が偏っている面があり、来年以降もこのような起用では潰れてしまう恐れも出てくる。他のリリーフを充実させてリリーフ陣の負担を分散できるようにしたいだろう。左腕を増やして起用の幅を広げるメリットもあり、現在のリリーフ陣事情をよく考えた指名と言える。

 

6位指名では日本文理高の鈴木投手を指名した。鈴木は最速150kmで高校生投手としては球威ある直球を投げており、将来的に更に球威を上げていける体格も魅力で、そのポテンシャルを評価されての指名と言えるだろう。変化球も多彩で本格派の先発として育て上げると、エース級にもなれそうな期待が持てる投手だ。市川と共に将来の投手陣の中心を担う期待を持っての指名だろう。

7位指名では九州共立大久保投手を指名した。久保は最速143kmと球速を売りにするタイプでは無く、体格も175cmとプロとしては小柄なほうだが、直球にしても変化球にしてもキレがあり、コーナーへ的確に狙った投球ができる制球力に優れた左腕だ。先発としてもリリーフとしても起用できる柔軟さを持っていて、ヤクルトのチーム事情に合致した起用ができる使い勝手が良い投手と言えるだろう。投手陣に不安を抱えるヤクルトにとってこうした投手は今後必要になってくるし、早ければ来年から1軍で起用される可能性もある。

8位指名では明治安田生命吉田内野手を指名した。吉田は社会人で守備はトップクラスのショートで、プロでも1年目から守れる技術を既に備えている。打撃に関しても広角に長打を打てる力を社会人になって身につけてきており、攻守両面で評価が上がってきた選手だ。ヤクルトのショートは今年西浦が定着したが、今後は吉田と競わせる形でも良いし、またサードの川端のバックアップとしての起用も期待できる。川端は現在31歳で今年は規定打席に到達できず成績も伸び悩んだ。後継者候補としては高卒2年目の村上がいるが、村上が1軍戦力に育つまでまだ少し期間を要するため、その間川端と吉田で競わせるのも良いだろう。このようにショートとサードの両方のレベルアップに貢献できる選手だ。

 

育成1位では栃木ゴールデンブレーブス内山捕手を指名した。高卒から社会人で3年間プレー後に栃木に入団した22歳で、年齢的には大卒と同じだ。身長172cmとプロとしては小柄だが、スローイングの上手さがあり打撃も独立リーグで3割近く評価が高い。ヤクルトは中村悠平が1軍捕手を任されているが、2番手捕手が35歳の井野でこちらはそろそろ世代交代が必要になってくる。井野以外は全員中村よりも年下で若い捕手が多いが、なかなか1軍で2番手としても起用されていない状態が続いており、新たに内山を獲得したのは競争を高める目的がありそうだ。

育成2位では福井ミラクルエレファンツ松本内野手を指名した。松本は大卒後独立リーグ入りして今年が2年目の23歳だ。主にショートを守っているが、内野全般・外野も守るユーティリティで、身体能力が高く打撃も独立で2年連続打率3割超えしている。ベテラン勢がまだまだ主力のヤクルトなので、内外野の後継者候補になることが期待されているだろう。

指名全体を見ると投手中心な指名だが、即戦力と素材型をバランス良く指名していて、短期的・長期的に考えた指名と言えるだろう。大卒以上の投手達は早期に1軍で活躍して結果を求められているのは間違いない。補強ポイントを1点集中という形では無いので、指名した投手全員がチームの戦力となるのが望ましいだろう。

野手指名はベテランが多い現レギュラー陣の後継者を考えた指名になっている。2位の中山はバレンティンや雄平などの打撃力のある外野手の後継者として考えているのがはっきり見えるし、8位の吉田はショート西浦のバックアップ兼サード川端の後継者候補としても意識しているだろう。将来性を考えてスラッガータイプの濱田も指名していて、ヤクルトの強みである打撃力を今後も弱体化させない指名となっている。

補強ポイントを抑えるよう投打でよくよく考えられた指名になっていて、意図がはっきりしているのがとても良い。

 

補強ポイントとの比較

ヤクルトの補強ポイントを今シーズンの成績から考察してみる。

チーム防御率 リーグ4位

先発防御率 リーグ5位

リリーフ防御率 リーグ2位

1試合平均失点 リーグ6位

チーム打率 リーグ1位

チーム本塁打 リーグ4位

チームOPS リーグ2位

1試合平均得点 リーグ2位

成績を見ると投手成績が全体的にリーグ下位になっていて立て直しが必要だ。平均失点がリーグ最下位なのは守備の影響もありそうだが、先発防御率も5位なので結局投手陣を立て直さないといけないだろう。

ドラフト1位の清水が即戦力の先発としての指名されており、来年からでもローテ入りが期待されているだろう。清水以外には7位指名の久保も制球の良い左腕で先発の可能性があり、彼らが台頭することで外国人と石川頼りの先発の状態から脱却したい考えが見える。

リリーフの防御率は悪くないがここには5位で坂本を指名している。坂本の役割としては、今年チームで最も多い登板数の74試合を投げた近藤の負担軽減が求められているだろう。リリーフ左腕の中澤が今年33歳でそろそろ世代交代が必要なので、左腕補強という点でも補強ポイントと合致している。

こうした先発・リリーフをどちらも補強する形で、投手成績全体の底上げをしたいことがはっきり見える指名だ。

市川・鈴木は先発とリリーフで次世代の柱として考えられていると思われる。先発は6年後には小川が34歳になっている頃で、小川の後継者となる投手が欲しいところだ。リリーフでは抑えの石山が3年後に33歳になっていて、こちらも新しい抑えの準備が必要になってくる。こうした補強ポイントに備えて事前に市川・鈴木を指名しているのはよく考えられた指名と言える。

打撃成績では打率がリーグトップで、本塁打数が4位になっているもののOPS・平均得点がリーグ2位で、セリーグでも上位の打線と言えるだろう。

ただこれまで書いてきた通り、1軍のレギュラーは全体的に高齢化が進んでおり、30代中盤の選手ばかりになっているため早急に後継者が必要だ。それを考えて2位で外野のスラッガータイプの中山を指名。8位では社会人ショートで内野全般を任せられる吉田を指名していて、世代交代が必要なポジションを抑えた形だ。将来的には濱田がライトに入るなどして、現状の外野陣からの完全に世代交代した形を作れるよう準備されている。

ヤクルト打線は数年後には村上が台頭してきて、主軸を打てる形になってくると予想できるため、そのために村上の前後を打てる選手や守備の要のポジションをしっかり固定できるようにしておきたい考えがあるだろう。4位指名の濱田や、育成1位の内山・2位の松本などは、将来の村上中心となる打線を意識して指名したと言えそうだ。

 

戦力となった際の未来予想図

今ドラフト選手指名選手が順調に戦力となった場合、ヤクルトの3年後・6年後にどう1軍戦力に組み込まれてくるかを考察してみた。

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3年後の時点で一塁・三塁・外野全部の世代交代が必要になってくるのが分かる。

外国人のバレンティンも3年後は厳しいため、新たな外国人野手の獲得が必要になってくるだろう。そのため比較的外国人補強しやすいファーストに新外国人を補強すると考え、バレンティンが守っていたレフトにドラフト2位の中山が入ると考えた。

ドラフト8位の吉田に関しては守備面を考えるとショートが考えられる。ここは現ショートの西浦との競争になるだろう。その他にポジションについてはサードは村上が3年後には1軍戦力で台頭してくると考え、外野のセンターは山崎晃が順調に成長してきて入り、ライトには2軍での打撃成績が最も良い谷内が入ると考えた。

6年後を考えると、ドラフト4位の濱田が1軍戦力まで育ってライトのレギュラーに定着すると考えた。その他では捕手の中村が6年後には34歳になっているので、ここは現在2軍で力を入れて育てられている古賀が入ると考えた。

現在のレギュラーは山田以外全員6年後に変わっている可能性が高く、今後ヤクルトは野手の世代交代に苦労することが予想される。その際、今回指名した野手たちが1軍レギュラーに定着できるような成績を残せると、その苦労も減ってチームに良い影響を与えるだろう。

 

 

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先発は3年後にはブキャナン・石川・カラシティー・ハフの4名が変わっている可能性があり、空く先発枠に今年のドラフト指名からは清水・久保が入ると考えた。他にも昨年先発で100イニング以上投げた星や、2軍で順調に育てられている高橋がローテに入ってくることが期待される。

中継ぎは3年後の時点では近藤・中澤が年齢的に残ってるのが厳しく、そこに指名した坂本が入る形だ。梅野も現在リリーフで育てられてきているため、3年後の1軍リリーフ定着が期待される。

6年後の先発は小川が34歳になっているためローテに入っているか分からず、そこに寺島と、今回指名した鈴木がローテに入ってくると考えた。

中継ぎは秋吉が年齢的に厳しいと考え、そこには3年後時点で先発としていた久保をリリーフに配置転換する形を想定した。久保がタイプ的に先発・中継ぎのどちらも大丈夫と判断しての予想だ。

そして抑えが石山から変わる可能性が高く、ここに市川を抜擢した。市川の球威は現時点でプロ級で、この球威を活かして守護神に抜擢する可能性を考えた。

投手陣は野手陣に比べると、世代交代に合わせてドラフト指名選手を当てはめることができるが、反面ドラフト指名選手たちがうまく1軍に定着しないとそこが空きのポジションになる可能性があり、今後の投手運用が厳しくなってくるだろう。

それだけに指名選手たちが今後しっかり育ち活躍することが重要になってくる。

 

採点

以上のことを踏まえて指名結果の採点を行ってみた。

99点

内訳を以下に記載する。

 

プラス点(100点)

・先発投手の立て直しにピッタリな安定感のある投手の清水を指名

・30代中盤の外野手がレギュラーの中に、彼らと同等の打撃力を期待できる中山を指名

・既にプロ級の球威を備えていて、将来の守護神候補としても期待がかかる市川を指名

・村上が台頭してきた時に前後を任せられる主軸候補として期待ができる濱田を指名

・即戦力左腕で今のリリーフ陣の負担を減らし運用の幅を広げられる坂本を指名

・現時点で150km投げれる高素材で、将来の先発候補として期待できる鈴木を指名

・チーム状況に合わせた起用がしやすい制球力の良い左腕の久保を指名

・ショートの守備が上手く内野のバックアップとして優秀な選手となれる吉田を指名

・将来の捕手の世代交代に合わせて今のうちから準備するための内山を指名

・内外野のユーティリティでチーム状況に合わせた起用が可能な松本を指名

・投手陣の現時点での立て直しと将来の補強ポイントを的確に抑えた投手指名内容

・今後の世代交代に備え打撃の良さやユーティリティの選手を確保した野手指名内容

・全体的にバランス良く補強ポイントを抑えるために考えられた指名

 

マイナス点(-1点)

・プロに入ってからでないと分からない不確定要素

 

指名した全選手がプロで活躍し、結果を残すことを願っている。

 

2019年ドラフト指名結果はこちら

www.hamanontan-baseball.com

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